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東京タワーが見えますか。 [単行本(ソフトカバー)]

2012/06/13

東京タワーが見えますか。
講談社

平成の初頭、銀行員の今井は、古い取引先の町工場「加藤金属」の加藤社長にマンションの建設を勧め、工場をやめてマンションのオーナーの座に就かせることに成功する。自分の実家も同じ町工場であることを説得に利用した。だが、マンション経営はすぐに傾き、今井は社長に競売にかけることを宣告しなければならなくなる。「東京タワーって優しい気持ちのときには鮮やかに見えるのです」。社長は怒りを抑えて呟いた。言葉が、今井の荒んだ心に沁み入る。人を幸せにするために仕事をしていたはずなのに、いつの間にか不幸にしてしまった。それから今井は銀行を辞め、父の工場を継ぐことにした。父のプレス加工技術が、世界に通じる本物であることが、工場に入ってからわかった。世間では金融不況が本格化し、銀行が相次いで破綻。今井がいた銀行も総会屋に対する不正融資で家宅捜索となった。いまこのとき、いったい誰の目に東京タワーが見えているのだろうか。──表題作「東京タワーが見えますか。」ほか「ある男の人生」「大過なく」「座敷わらし」「爺捨て山騒動記」「まだまだ」「マラソン先生」の7編を収録する、サラリーマンの悲哀をそこはかとなく描いた経済小説短編集。