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すばらしい新世界(池澤夏樹)

2011/06/16 ,

すばらしい新世界」(池澤夏樹・中公文庫)は2000年の本だが非常に現在の状況に対する示唆に富んでいる。
主人公がネパールの中のナムリンという王国に独自の風車を建設に行く話しだ。その過程で家族や文明、民族といった大きなテーマを考えさせられる。
その中で、東海村の原子力事故に関して著者は以下のように言う。

作者の専門は原子力工学ではなく言葉である。だからもらったパンフレットの言葉づかいが気になった。「放射線の封じ込め」というわずか百六十字の文章の中で事故の危険性は「固い」、「丈夫な」、「密封」、「がんじょうな」、「気密性のたかい」、「厚い」、「しゃへい」などという言葉によって封じ込められていた。
形容詞が多すぎる文章には用心した方がいい、というのは文章にたずさわる者の心得の一つである。そういう文章には誠意がない。形容詞を乱発するのは何かを隠している時だ。
要するにこれは論理的な説明の文章ではなく、広告の文体、いわゆるコピーだった。
(中略)
新しいマルサスの法則ー生み出すエネルギーの量は指数関数的に伸びるのに、それを扱う安全工学の信頼性は算術的にしか伸びない。両社のギャップはいずれ文明にとって致命的な事故を生まないか